すかいみん。

がんばるぞい。 (仮)

プライバシーポリシーと免責事項

こんにちは。

サークルの責任者でもあるそらみん。 です。

 

今回は申し訳ないのですが、いつものネタ記事ではないです。

 

 

 

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瞬いた夜空

注. 残酷描写あり。

R-15 指定です!

 

 

 

 

 


プロローグ
 それは真夏の空に上る花火のような姿だった。
 俺の目の前で、また一つの命が潰えた。下衆な笑みを浮かべた男どもが、遊び半分で子供の頭を爆発させ、それを見て笑っている。
 彼らは人間ではない。比喩ではなく、種族として別物なのだ。
 長く尖った耳に、透明感のある髪。白く透き通るような肌に小さな背丈。本当に男性なのかと疑ってしまうほどに美しい彼らはその整った顔立ちを醜く歪せて。恐怖で震えあがる子供たちを囲み虐殺している。
 彼らはエルフ。俺ら人間とは根本から異なる存在だ。そんな彼らが、俺達の住む村を破壊し、略奪し、蹂躙している。
 きっかけはほんの些細なことだったと思う。
 元々俺ら人間が暮らしていた村と近くの森で生活していたエルフは、交易があり互いに友好関係にあった。もちろん俺らは別の村にある人間や移動しながら物々交換を行うキャラバンとの関わりもあったが、近くの森にすむエルフ達が一番の交易相手だった。彼らは人間が作ることのできない魔法を使った道具を編み出したり、人間には不可能な現象を生み出したりと、会うたびに面白いものを披露してくれた。
 当時交易商の秘書だった俺にとって、彼らとの交渉はいつも刺激的で、目新しいものの数々は楽しいものだった。
 しかしある日、彼らは突然無茶な要求をしてきた。彼らを率いるリーダーが変わったらしく、今後人間との交易を続けるならばもっと良い条件で行えと圧力をかけたそうだ。そして、その条件をのまなければ実力行使も辞さないと。
 俺らの村は決して豊かな方ではなく、自給自足や鉱石の加工品を生業としているものだった。だから、彼らに提示された莫大な資本や資源は到底用意できるものではなく、俺らはその「実力行使」を受け入れざるを得なかった。
 俺らはそれに対抗すべく友人と一緒に自警団を結成し、慣れない武器の練習をし、エルフと戦った。しかし、遠距離から襲ってくる彼らの魔法は、剣で対抗できるものではなく、次々に仲間が死んでいった。俺はなりふり構わず特攻し、彼らを二、三人殺した。しかし。
 俺は右足全てと左腕の半分を失ってしまった。これが無ければ、今殺された子供たちを助けに、この右腕で握っている剣で一人くらいは殺すことができたのに。
「けっ、辛気臭い顔しやがって」
 突然、頭の上から声が聞こえた。この村に残っている人間はもうほとんどが殺されて横たわっているか、俺のようにうずくまっているだけだ。つまり、今立っている者は人間じゃない。敵だ。
「……!」
 痛みをこらえ、残った右足を軸に体をねじり、持っていた剣を抱きしめるような形で振り上げる。力の入っていない攻撃だが、当たれば剣の重さと遠心力で殺すことができる。が、
 はじけ飛ぶような金属音とともに、その動きが押さえつけられる。
「っと、いきなり何しやがるんだ!」
 その怒声に驚き顔を上げると、一人の修道女がいた。彼女は乱雑な赤い髪をしており、口には煙草、サングラスというおよそ聖職とは思えない姿をしていた。そして、信じられないことに低い位置からの俺の攻撃を、小さなロザリオで受け止めていた。
「へっ、痛みで意識朦朧ってか? お前はそういうタマじゃねーだろ」
 姿同様に口も悪いそいつは、剣をロザリオで受け止めたまま俺を見下す。
「それとも、アタシのこと忘れたってのかよ」
 短くなった煙草を捨て、足で踏みにじる彼女。
「ほら、これで思い出したか?」
 サングラスを外し、俺に向かって顔を近づけるそいつ。その目は血のように紅く、どこかで見たような――
「って、お前キャットか?」
「ご名答! 君が惚れてたキャットこと、カトリーナちゃんだよー」
 くっくっくっ、と少女のように笑う、修道女ことキャット。
「しっかし、ここも私がいないうちにすっかり変わっちまったな」
「……エルフの襲来があったんだ。そのせいで、この村は」
「へえ、エルフが! あいつらいつも森の中に引きこもっているだけの小心者だと思ってたけど、なかなかやるもんだ」
「あいつらのせいで、俺らはこんな目に」
「あー、何を勘違いしてるのか知らんが、おめーらが侵略されたのは単に弱いからじゃねーか」
「何?」
「単純に、おめーらが無力だから、弱いから侵略されたんだ。分かるか? 今この村に起こっていること。「戦争に負ける」ってのは、そういうことだ」
 俺らがこうして語り合っている間にも、エルフ達は略奪と虐殺を繰り返している。半壊した家に土足で入り込み片隅で怯えていた家主を殺す者や、タンスやベッドの下から金品を摂り漁る者、すでに意識のない村人を麻袋に入れ、複数人で私刑を与えていたりと、秩序のない世界がそこにはあった。
「俺らは、こんな仕打ちを受けなきゃいけないってのか」
「そうだ」
「弱かったから、戦争に負けて! 罪のない子供が、守るべき女性が、共に戦った仲間が、無残に殺されないといけないのか!」
「そうだ」
 俺が振り上げた剣を無造作に蹴り捨て新たに煙草を咥える彼女。その蹴りで、俺はバランスを失い地面に倒れ込んでしまう。
「戦争に負けた後で、後悔しても遅い。諜報、研究、内政、軍事、経済…… 自国の持つすべてを総動員して敵を打ち負かすんだ。完膚なきまでにな。そこに慈悲や情なんてものはない。妥協や怠惰などもっての外だ。戦争に負けるということは、本当に恐ろしいことなんだから」
 悲しそうな声で彼女はそう言った。
「それでも、俺は! 大切な人達を守りたかった……」
「けっ、神父様の受け折りだから、あたしに文句言うんじゃねーよ。ま、だからといって指をくわえて見ているしかない、ってわけじゃないんだけどな」
 不格好なままキャットを見上げると、不敵な笑みを浮かべたまま見下ろす彼女の姿があった。
「あたしと来な。面白れえもん見せてやるよ」
 手を伸ばし、火のついていない煙草を咥えたまま彼女は言った。
「……この地獄が変わるなら、いいさ」
 その女性らしい柔らかな手を握った感触を最後に、意識が失われていった。

 

「くそ、夢か」
 全くもって憂鬱な気分で目を覚ました。
「ねー、おなかへったー」
「ご飯まだー?」
「うっせえガキども! 文句あるなら手伝え!」
 ちょっと、いや相当騒がしい空間。ここは、一体?
「ねー、この兄ちゃん起きたみたい―」
 むにむにと小さな手で頬を引っ張られる。
「あ? つべこべ言わずにお前も手伝え!」
 怒声とともに三々五々に走り回る子供達。
「本当に、ここ何処だよ」
「ここは僕らレジスタンスのアジトさ」
 聞いたことのない声の方向を見ると、そこには一人の子供がいた。身の丈に合わない大きな白衣を羽織り、ずり落ちそうな聴診器を首にかけた少年。見たところ八歳くらいか。
「ああ、紹介が遅れたね。僕はヨハン。君の主治医さ」
 少年は眼鏡をくいっ、と上げ、自信たっぷりに話す。
「僕は君を患者として責任を持つ立場にあるからね。何か質問はあるかい」
「……年はいくつだ」
 ばっ、と両方の手を俺に向けるそいつ。
「ああ、十歳ってこと」
「うん」
 自分の歳くらい口で言えばいいのに。なんで小さい子供って手で表現しようとしたがるんだ?
「そうか。おれよりはるかに年下のやつから世話されるのか」
「若いからって見くびらないでほしいね。これでもれっきとした医者だよ。君の傷を縫ったのも僕なんだから」
「傷を、縫った?」
「そうだ。君、手足だけじゃなくて色んなところに傷があってね。よく出血ショックで死ななかったね」
 よく見ると俺は上半身裸で、腰や左腕には包帯が巻かれていた。
「そうか、お前がやってくれたんだな」
「ああ。奇麗に巻いてあるだろ?」
 ふふん、とさらに得意げな顔をする小さな医者。
「ほら、頭を撫でてもいいんだぞ」
 少し頬を赤らめながら彼はそう言った。
「あー、はいはい。えらいえらい」
 棒読みでそう言いながら頭をなでると、「えへへ」とその子供は嬉しそうに微笑んだ。
 なんか可愛いな、こいつ。
「おい、ヒマならお前らも手伝え」
 両手に大盛りの料理を乗せたままキャットが来た。その時、
 短い悲鳴とともにキャットがこけた。そして、彼女の手にあった大皿はそのまま俺の方へと落ちていき……
「……っ!」
 動けない俺は左腕で顔を庇いながら右腕をその皿へと伸ばした。
 その刹那、痺れるような感覚が右腕を走り、爆発音とともに陶器が爆ぜる音と白煙が立ち込める。
「けほっ、けほっ」
「こほっ、一体、何が?」
 空にかざした右腕からは未だ雷電が纏わりついていた。
「何だ、これは」
 俺の呟きに答えるように、小さな医者が答えた。
「これは魔法だね。信じられないけど」
「魔法だって! 人間には使えないはずだろ!」
「そう。基本的にはね」
 人間はエルフのように魔法が使えない。これが俺達の村が崩壊した理由でもあった。狩弓よりも遠くから強力かつ多彩な攻撃を撃つことができる魔法に、俺達は太刀打ちできなかった。
「そういえば君の血液から面白いものが見つかってね」
 白衣の少年は赤い液体が入った試験管をポケットから取り出した。
「未知の細菌が君の中から見つかったんだ」
「あ? よく分からんがこいつは人間じゃないってことか?」
 黙ったままだったキャットが口を開いた。
「ううん。人間だよ。でも本当なら敗血症って病気のはずなんだ。血液に細菌が入り込んでいるからね。でも、四肢の一部に欠落があるだけで至って健康体だよ」
「つまりどういうことだ」
「彼は、魔法が使える人間になったってことだよ。彼はエルフと戦っていたって言っていたから、おそらくその時にエルフの血が混じり込んだんだね。」
「こんなものが使えたところで、一体何になるっていうんだ。俺の仲間を奪った力だぞ」
「あー、勘違いしてるかもしれんが、使えるものは使うべきだぜ。てめーにどんな因果があるか知らねーけど。それより、あたしらと一緒に来るんだったら、あたしらの最終的な目標を言わなきゃいけねーな」
 俺は、ベッドの上からキャットを見上げ、その次に来る言葉を待った。
「あたしらはある場所に行くのが目的なんだ」
「場所?」
「そうだ。ここよりもう少し遠いところ、エルフの住む森を越えたところに、あらゆる種族が混在している国があるらしい。争いがなく、大人だろうと子供だろうと受け入れてくれるそうだ。あのガキどもが安心して生きていくために、あたしらはそこを目指さないといけないんだ」
「本当にあるのか?そんなところ」
 昔から、彼女の「らしい」や「だろう」といった言葉はあまり信用できないってのは分かっている。
「大きな時計塔があるところで、結界が外界から守ってくれるって話だ」
「そんなところ、本当にあるのか」
「知らん」
「『知らん』って、そんな」
 そんなにはっきり言わなくても。
「正直、おとぎ話かもしれないってのは分かってる。でも、今はどうこう言っている場合じゃないだろ。こいつらのためにも」
 彼女は子供たちを横目に見て、少しばかり悲しそうな目をした。
「もしかしたら、その国が無かったとしても、もしかしたらガキどもを受け入れてくれるところがあるかもしれないだろ?」
「そうだな」
 ただ、俺達の村はもうそんな余裕はない。
「ところで、あの子供たちは何だ?」
「あいつらか? あいつらは孤児だよ。あちこちで親を亡くした子供たちをあたしが引き取って世話してるんだ。一応これでも修道女だからな」
「すごいな、キャットは」
「けっ、褒めても何も出ねーよアホ」
 顔を赤らめ、目をそらすキャット。
「ってことで、てめーにも手伝ってもらうからな。その体だから戦闘には役に立たないと思ってたが、案外そうでもないってわかったしな」
「ああ。あのエルフどもをぶっ殺せるのならいくらでも手を貸してやる」
 俺の感情に答えるように、右手がうずきだした。
「期待してる」
 彼女は立ち上がると、子供たちの方に歩いて行った。

 

「よし、そろそろ出発するぞ」
 俺が魔法を使えると知って三日経った夜、彼女はそう言った。
「ねー、眠いよー」
「……くかー」
 彼女の周りに立っている子供たちは皆寝ぼけ眼をこすりながら立っていた。中には立ったまま寝ている子供もいる。
「あたしらには時間がないんだよ。ほら、あいつらが寝ている間にさっさと行くぞ」
 『あいつら』とは、おそらくエルフたちのことだろう。
「あいつらに見つかったら厄介だ。最悪、殺されるかもしれない」
「でも、行くしかないんだろ?」
 俺の言葉に対する返事はなく、彼女は前を向いて叫んだ。
「おら、さっさと行くぞ!」

 ホタルのような淡い光が漂う幻想的な森の中を俺らは歩いていた。夜中であっても淡く輝く森の中は、この世のものとは思えないほどきれいで、いつまでも立ち止まって見ていたくなる。
 だがここは敵地の真ん中で、立ち止まる時間も余裕もない。
「しっかし、よく見ると違和感あるな」
 子供たちの後ろを歩いていたキャットが話しかけた。
「どういうことだ」
「いやな、ここが人間とは違う世界だってのは分かるが、あたしが良く知る匂いがあるんだよ」
 彼女は煙草に火をつけ、不機嫌な顔になる。
「破壊と暴力の匂いだよ。見な、建物みたいな場所が崩壊してるし、火災があった跡がある」
「何かの自然災害があったって線は?」
「それはない。地震や火事があれば森の外からでも分かる。それに、死体が無い」
 彼女の言葉通り、人工的に作られたであろう家屋のようなものが落下の衝撃で崩壊してるのが見えた。
「たしかに、ちょっと疑問だな」
 松葉杖をつきながら俺は、もう一度この景色を見渡してみた。
「たしかに、よく見るとおかしいかもな」
「だろ?」
 煙草の灰を落とし、咥え直す彼女。
「要するに、ここは襲撃地帯。ここを襲った奴らはまだここに潜んでいるかもしれないし、もうとっくに別の場所に移ったかもしれない。ただ、あたしから一つ言わせてもらうと――」
 煙草を捨て、足でそれを踏みにじる彼女。
「――この近くに、かなり好戦的な奴らがいるってことだ。気を付けねーとな」
「ああ。だがあっちから襲ってくるなら好都合だ」
 右手に疼きを覚えながら、焦る気持ちを抑える。
「まあ、とりあえずは安心か」
 そう言いながらもう一本の煙草が取り出されると。
 パン、と小気味いい音と共にそれが爆ぜた。
「なっ……?」
 俺だけではなく、それを取り出したキャットも驚いている。そして、足元にいる子供たちもその音を聞き、竦み上っている。
「人間だ! 人間だ!」
 甲高い声が森の中を響き渡る。子供のような声だが、野太く邪気を孕んだ音をしており気味の悪さを感じる声だ。
「くそっ! 見つかったか」
 キャットは我に返り愚痴を吐いた。
「しかも、囲まれてるな」
 魔法が使えるようになったためか、同じように魔法が使えるエルフの存在がはっきり分かった。
「ここは逃げ出したいが」
 聞き覚えのない呪詛が聞こえたかと思うと、俺達に向かって光の矢が飛んできた。それらは俺達の周りを穿ち、地面を爆発させた。
「このままじゃ逃げ切れない上に全滅だな」
 それに、俺は逃げ出すことができない。足がない今じゃ、言葉通り足手まといだ。
「俺が残る。俺が囮になれば皆が逃げ切れる。お前は生き延びて、子供たちを守ってくれ」
「は? ふざけんなよ」
 エルフ達が生み出す攻撃の中彼女が叫ぶ。
「お前、死ぬ気だろ」
「ああ、そうだ」
 彼女の真後ろにいたエルフに向け魔法を放つと、それは距離があるにも関わらずエルフを直撃し、落下させた。
「それに、俺の仇を殺すことができるなら本望だ」
「……てめぇ、まだそんなこと言ってやがる」
「そんなこと、だと」
「あたしは、あんたに死んでほしくないだけなんだよ! そんなことも分からないのか!」
 大きな雷鳴が轟き、俺らの近くにあった岩が崩壊する。
「あたしも残るぜ。そして、一緒にガキどもを受け入れてくれるところを探すんだ」
 そう言って彼女は、子供たちの中でも一番大きい、白衣を着た子供の前でしゃがみ込んだ。
「なあ、今からお前が一番年長になるんだ。だから、お前が皆をまとめるんだ」
「でも、キャットは」
「あたしのことはいい。すぐに追いつくさ」
「キャット姉ちゃん」
「だから、皆で生きろ! 生きて、受け入れてくれる場所を探しに行くんだ!」
 その小さな肩を掴み、懸命に言葉を紡ぐ彼女。その心に動かされたのか、白衣の少年はこくりとうなずいた。
「分かった。わかったよ」
 大粒の涙を流し、何度もうなずく彼。
「よし! お前ら、走れ!」
 その言葉に、子供たちが走り出す。その小さな体に大きな荷物を抱えた彼らは決して足が速いとは言えないが、運よく皆が逃げていった。
「どうやら、あいつらの攻撃はそこまで当たらないようだな」
「ああ、距離もあるからな。でも徐々に狙いが絞られてきている」
「死ぬなよ」
「そっちこそ」
 俺が魔法を放つと同時に、彼女は懐から数十個のロザリオを取り出し、エルフに向けてぶん投げた。

 

「なあ、生きてるか」
「なんとかな」
 俺らは、エルフ共を屠ることが出来た。俺は松葉杖のせいで動くことはできなかったが、魔法で壁を作り身を守ることで難を逃れた。キャットも、その尋常ではない身体能力で攻撃をかわし、ロザリオで殺した。だが、俺も彼女も無事ではなかった。
「まさか、一撃でも食らったらダメなんて思わなかったわ」
 エルフの攻撃は精度こそ低かったが、その一撃は強力だった。
「このままだと、間違いなく死ぬな」
「さっきは死して本望って言ったが、やはり死ぬのは怖いものだな」
「へへっ、助けてあげましょうか~?」
 突然、漆黒から人影が現れた。驚く俺に、キャットが声をかける。
「お前は誰だ」
「ちょっと~。そんなに敵意込めないでくださいよ」
 明らかにそいつは敵だ。姿こそ人間だが、その目はどす黒い。
 そいつに向けて魔法を放つ。
「……だめ」
 幼い声が聞こえ、俺の魔法が打ち消される。
 人間の後ろからフードをかぶった影が現れた。四肢は異様に白く、細かった。
「もしかして、こいつもエルフか」
「へへっ、そうですよ、旦那」
「なら、生かしておく必要はないな」
 俺がそう言うと、そのエルフはびくっ、と体を震わせて後ろに下がった。
「まあまあ。そうがっつくことはないですよ~。 こっちはいい情報を持って来たんですから~」
「情報、だと」
「これでも情報屋をしてるもんで。そう、この近くに、私らが『中立国』と呼ぶ場所がありましてね~ そこに子供たちが保護されたって話を伝えに来ました~」
「『中立国』だと?」
「時計塔のある国って言えば分かりますか?」
 下がっていたエルフが口を開いた。
「じゃあ、あいつらはもう無事だってのか」
「それは分からないけど。少なくとも戦争に巻き込まれることはもう二度とないんじゃないかな」
「そうか、良かった」
 キャットは安堵の溜息をつき、満足そうな顔をする。
「へへっ、良いことばかりでは無いですよ」
 どす黒い目をした人間が気味の悪い笑みを浮かべたまま口を開いた。
「ここから先は後日談、ってことで。実は、君たちが殺したエルフの集団って、エルフの世界では異端者だったんですよ~ 人間も獣人も見境なく侵略していく者達でしてね。でも君たちがそれを皆殺しにしたおかげで他のエルフ達が怒ってしまいまして、軍隊を編成して人間たちに宣戦布告したそうなんですよ~」
「それって」
「へへっ、君らが人間を滅ぼす原因になっちゃったわけですね~ まあ、中立国にいる人間は無事でしょうが」
「そんなこと、あたしらには関係ない」
「それは無関心過ぎませんかねえ」
「はっ、相手のことを考えずに戦争ばっかりしてる人間なんて滅べばいいさ。あたしはこの目で見てきたからな。罪のない者が遊びで殺される地獄をな」
「俺の村でもそうだった。真っ先に罪のない者達から殺された」
「へへっ、では本題に戻りますよ~ 私は君たちを助けることができます」
「断る」
「俺もだ」
「そうですかぁ」
 へらへらと笑うその人間。
「魔法の使える人間、珍しいんですけどね」
「きっと後天的に能力が出現したパターンだよ。それに、僕は『中立国』のことしか興味ない。人体魔法が専門といっても、生きたくないのに救うほど僕はおせっかいじゃないから」
「へへっ、君も無関心ですね」
「言ってろ」
 そう言って、その二人組は暗闇の中に去って行った。
「いいのか、誘いを断って」
「ああ。こんなの信じられないしな」
「あいつら、一体何だったのかな」
「死神かもよ」
 ひひっ、と屈託のない笑みを浮かべる彼女。
「死神で思い出したけど、お前一度あたしに告白したことあったよな」
「なっ!」
「そうそう、あたしらが十歳のときだったか。あたしの両親の葬式で、『僕が新しい家族になる』って。今思い出すと面白いよな。しかも遺体に捧げる花束で『君のことが好きだ』って格好付けてさ」
 なんてことを今思い出すんだ。
「でも嬉しかったぜ。この先一人ぼっちだと思ったが、少なくとも一人はあたしのことを思ってくれる人がいたって分かって。まあ、墓場でのプロポーズとか、ムードもへったくれもないけど。その後孤児院から教会に行って、あたしは修道女になって、巡礼の途中で戦争孤児に出会って…… そしてお前にもう一度会えて」
「俺も、キャットにまた会えて良かった」
 彼女の手を握り、答える。
「ありがとう」
「へっ、お礼なんてガラにもないことするなよ。照れるじゃないか」
 輝いた星空の下、俺達は静かに微笑んだ。

 

エピローグ
「ねえ、これでいいのかな?」
「へへっ、何の話ですか」
「あの人たち、死んじゃったのかなって」
「それなら、助けたらよかったじゃないですか」
「そんな簡単な話じゃないって」
「案外、人間は簡単なものかもしれないですよ。生きて、世界を変える可能性もありますよ。まあ、人間ではないエルフには分からないかもしれませんが、ねえ、賢者さん」
「賢者って呼ぶな。ぼくにはトロイメライって名前があるんだ。それに、おまえだって人間じゃないだろ。無貌の神」
「へへっ、何の話ですかねえ?」

 

瞬いた夜空 完

Spring Trigger

注. 性的描写、残酷描写、さらに百合要素あり!

苦手な方は、ブラウザバック推奨!!

 

 

 

 

 

プロローグ  ――玉木のガール・ミーツ・ガール――

 

 桜が舞い散る、校庭の一角。

 スマホを操作していた手を止め、何気なく視線を上げてみた。

「きれいな、桜」

 人気のない道に春の太陽が降り注ぐ並木道。散ってゆく花弁が光を反射し、舞う。

 私はここが好き。退屈なとき、落ち込んだとき、いつもあたしを紛らわせてくれるこの場所。見たくない現実から目をそらさせてくれる、この場所。

 前髪が少し目に触れて目を閉じてしまったけれど、さらさらと花がこすれあう音は耳に聞こえてきて、暖かい風が肌に当たり、懐かしい桜のにおいが鼻孔をくすぐる。

「さて、と。もう行かなくちゃ」

 ぼおっと目の前の景色を眺めているのもいいけど、そろそろ時間になっちゃう。

「――――!」

 ゆっくり立ち上がりスカートの汚れを払ったその時。頭上から不意に、女の子の悲鳴が落ちてきた。

目を向けると、

「ぱ、ぱんつ⁈」

 スカートから降りる可愛らしい両脚と、純白のぱんつ。

 いったいなに……?

「たすけてーっ! 下ろしてーっ!」

 分からないけど、木から降ろしてもらいたいらしい。

 ひとまずあたしは木に登り、ぱんつの主へと移った。

「どうしたの?」

「うおっ! びっくりした」

 ぱんつの主は口を四角く空け、目を大きく見開く。可愛らしく驚いたそれは髪を短めに切り揃えた女の子で、柔らかそうな頬を赤く染めながら、涙目のまま私を向いた。

「なんであなたはこんなところにいるの?」

「いやー、この子助けようとしたんだけどね。あたしも降りられなくなっちゃった」

 なにそれ。

 私は彼女の手元で鳴いた子猫を見やりながら、ため息をついた。

「ここから飛び降りなさい。そこまで高さはないから大丈夫よ」

「えっ! 無理」

 騒ぎ出す彼女。このままだと遅かれ早かれ落っこちてしまう。

しょうがないなあ。

「じゃ、しっかり掴んでて」

 私は彼女の体を抱きしめると、思いっきり飛び降りた。

「ひゃああぁっ!」

 その小さな体を抱きしめながら、衝撃の瞬間に備える。

 三、二、一。

「っ……」

 まともに足から落ちたため、声にならない叫びが上がった。

「ぐひゃっ」

 私が抱きしめた女の子も、同じように声を上げた。

「にゃう!」

 それを聞いた猫も同じような悲鳴を上げた。

「……無事?」

 やっとの思いで引いた痛みを悟られないよう注意しながら問いかけてみた。

「痛ったいけど、あたしは平気。この子も怪我はないみたい」

 安堵の表情を浮かべる女の子をよそに、あくびをした子猫は腕の中から飛び出した。

「あ、待って!」

 女の子も飛び出し、子猫を追いかけて行った。

「……騒がしい子だったな」

 いまだ痛みの残る足をさすりながら、地面に腰を下ろした。

 そういえば、名前聞いてなかったな。

「――ぱんつの子、でいいか」

 まさか、退屈しのぎで来た場所で、変な子に合うとは思わなかった。

 でも、すっごくかわいい子だったな。

 

 

 

第一章 小林少女と存在感の消えた少女

 

 あたしは昨日、春休み最後の日に子猫を助けるために木に登って、一緒に降りられなくなっちゃったんだ。バカだよね。五年生にもなって。

 でも突然現れた謎の美少女に助けられて、けれどお礼もできずに逃げ帰っちゃった。

 まああれはあの子猫が悪いんだけど。

 でもでも、まさかその美少女にまた会えるなんて思ってなかったよ。

「はあ。運命の神様適当すぎ。おんなじクラスになるなんて」

 進級してクラス替えして。そしたら会いたかった少女がいて。

「玉木桜ちゃん、か」

 さっき自己紹介で覚えた名前を反芻しながら、彼女を見る。

 さらさらで触りたくなるような長い黒髪、長いまつげ。穢れが一切感じられない肌と、細く伸びた手足。この世のすべてを毛嫌いしているかのようにひそめたままの眉も愛らしい。そして、こんなに人目を引く美貌であるにもかかわらず人が集まらないのは、彼女が周りを拒絶しているからなのかな。それがまた、彼女の神聖さを際立たせているみたい。

 おしゃべりしてみたいな。

 幸い、今は進級式が終わって、担任の先生の挨拶や自己紹介も終わった時間。決まったばかりのクラス委員長と副委員長が先生と一緒に新しい教科書を取りに行っているのを待ってるだけの時間で、あたしたちは三々五々に仲の良い友達同士でおしゃべりしていたり、逆に一人で机に座っていたり、ランドセルの中身をいじって教科書の入るスペースを確保していたり色々。

 男子はなんか知らないけど、昨日やってたバラエティ番組のことで集まって喋っていたり、芸人の真似して変なポーズして騒いだりと意味わかんないことしてる。うん。こっちはいつも通り。

 だからまあ、あたしが出歩いていても問題ないはず。

 俯いてスマホを触っている桜ちゃんの元にこっそり移動する。

「ねえ、あなた昨日の子でしょ」

 後ろから声をかけると、彼女は毛を逆立てて目を大きく見開いた。

「あ、ごめんごめん。驚かすつもりはなかったんだけどね」

 手を合わせて申し訳なく態度で表す。

「別に。私は気にしない」

 少しばかり棘のある声だが、それが余計にあたしの心を揺さぶる。

「そうそう。昨日は助けてくれてありがと。お礼できなくてごめんね」

「いいよ、別に」

「あ、あたしは小林――」

「知ってるわ。さっき自己紹介してたでしょ」

「でも覚えてくれるなんて、嬉しい」

「たまたま聞こえただけだから。勘違いしないで」

 視線をそらしスマホをいじり始めた桜ちゃんだったけど、頬が少し赤くなっていた。

「あ、そうそう。放課後なんだけど、一緒に遊ばない?」

 とりあえず誘ってみる。話はそれから。

「え」

 短い一言を放ってあたしの顔を見る桜ちゃん。その顔は、さっきまで一人でいたときよりも明るくなったみたいだ。

 ただ、その時彼女の手に握られたスマホが小さく震えたせいで、また桜ちゃんの顔が暗くなってしまった。

「……ごめんなさい。私、用事あるの」

「ふーん、じゃ、また誘うね」

 彼女が言うならしゃーない。

 踵を返した瞬間、彼女は小さく零した。

「――大丈夫。あの子にはばれてない」

 ん、どういうこと?

 

「ってな訳で、協力しなさい! 明智

「なんでよ」

 ぼさぼさに乱れた栗色のポニーテールを揺らして、こっちを見る女の子。

 こいつは明智。あたしにとって最高の相棒。

 あたしの一つ下で小学四年生ながらも、留守がちな渡りの両親に代わって一緒にご飯食べてくれたり、いろんなところに連れてってくれるあたしの親友。そして、クラスで浮いちゃうからって養護学級に所属しているんだ。だから、明智のことを知っているのは、偶然家がとなりのあたしくらい。

 明智はその綺麗な眼を細め、怪訝な顔をしてあたしを見た。

「なんでって、明智って優秀な探偵なんでしょ。謎の美少女を調査できるなら役得でしょ」

「それって、君がやりたいだけでしょ。ボク関係ないじゃん」

 面倒くさそうにしているけど、実は明智、とっても賢いんだ。警察からも一目置かれる頭脳を持っていて、事件を解決するため特別な捜査権を与えられてる。でも本人はとっても面倒くさがり。もっとしっかりしてもいいのに。

「それにボクは、探偵にしかなれなかっただけだよ」

 悲しそうに目を伏せた明智。でもすぐに顔を上げると探偵の、プロの顔になった。

「で、今回は人調べ?」

「いいじゃない。いつもやってるんでしょ」

「やだ。めんどい。ただでさえ今刑事部捜査一課の人から捜査協力頼まれてるんだから。断るつもりだけど。面倒だし。この町に、『黒蜥蜴』と呼ばれる女性の売春殺人鬼が現れてるとか、どうでもいいよ」

 むー。ちょっとくらいいじゃない。

「ねえ明智、あたしのお願い聞いてくれたら、イイコトしてあげられるのに」

 スカートの端をひらひらしながら言ってみる。

「女の子しかいないのに何言ってるの」

 さすが明智。ツッコミも鋭い。

「それより、今度は何を調べるんだって」

「女の子」

「はあ。やっぱりあんたレズだったか。まあボクに関わらなければ何でもいいけど」

「違うもん! あのね、さっき教室でね――」

 

「なるほど。あんたはその子に嫌われてると思ったんだ」

「うーん、まあ、そうなんだけど」

 でもそうじゃなくて。

「それ以上に、あの子と仲良くなりたいんだ。ただそれだけだよ」

「ふーん」

 明智は本当に興味がなさそうだ。

「じゃ、君のお願いだし、いいよ。片手間で適当に捜査するから、色々手伝ってもらうよ」

 

 そして次の日。あたしは聞き込みをした。明智が言うには、いろんな人たちから話を聞いて限りなく多くの情報を手に入れろ、だって。クラスにいる仲の良い女の子たちだけじゃなくて、話のしやすい男の子や、ほかのクラスや上級生、下級生、そして先生や事務員や清掃員の人たちと、学校にいる人々のほとんどに、桜ちゃんのことについて聞きまわった。もちろん彼女にばれないよう注意して、だけど。

「で、何か分かったの」

 昼休み。上級生であるはずのあたしの教室に明智が入ってきた。

「何もわからない、ということが分かりました」

「ふざけんなよ」

 自分の席に座っているあたしを見下ろして、腕組みのまま仁王立ちしている明智だけど、一回りも小さな彼女は活発的な女の子グループに愛でられ、頭を撫でられたり質問責めにあっている。どうにも威厳というものが感じられないあたりすっごく可愛い。

「いや、本当だって。直接関係ない事務員さんとか、先輩後輩とかならわかるんだけど、何回もクラス替えしているはずの同学年ですら、桜ちゃんのこと知らないんだ。みんな、あたしとおんなじで、彼女のこと知らなかった」

「ほう。得てして妙だ」

 明智はべたべたと上級生からの洗礼を受けながらも、それを気にせず考え事を続ける。

「ボクのように養護学級通いでクラスメートと面識のない、もしくは不登校だったら分かるんだけど、学校に登校しておいてその存在感の無さはおかしい」

「ん?」

 どういうこと?

「変なんだよ。学校にいて誰も知らないレベルで目立たないということは。数人くらいは仲の良い友人くらいはいるだろうし、そうでなくてもぼっち同士でカテゴリ分けされているはず。なのに誰も彼女のことを知らない。話の話題にすら上がってないってこと。おかしいよ」

「たしかにそうだよね」

「うん。ちょっと興味わいてきた。たかが一女子小学生がこんな存在感のないことってありえるのか。」

「そういえば桜ちゃんが欠席したって話も聞かないね」

「ふむ。徹底しているね」

 明智はだんだんうれしそうな顔になる。

「よし分かった。ボクも見せたいものがあるから、帰ったら楽しみにしていて」

 そう言って踵を返す明智

 ただ、少し歩いたところで彼女は振り返り

「さっきは『ふざけんなよ』なんて言ってごめん」

 それだけ呟き、教室から立ち去った。

 

「たっだいまー」

「おかえり。遅かったね」

 鍵を開けて家の扉を開くと、一足先に明智がいた。

 あれ、あたし鍵かけてたはずなんだけど?

「扉の鍵閉めてても、庭の鍵開けっ放しじゃ意味ないよね」

「あーそっかー」

「納得してくれても困るんだけど」

 明智は呆れ顔のまま手に持ったカメラを机の上にそっと置き、通学鞄の中から紙束を無造作にあたしに向けて放り投げた。

「これは?」

「ああ。戸籍謄本。ボクが警察から委託されている特権で入手できた。あんだけ存在感のない少女だったから、もしかしたら戸籍すらないかなって思ったよ。ちょっとだけ」

 ふざけたような顔で彼女は頭を掻いた

「ボクはもう見たから、勝手に見ていいよ」

「うーん。そう言われても」

 なんか堅苦しくて、読めない漢字もあって、これだけ渡されてもただ理解できない。

「とりあえず疑問とかあったら言って」

 どうしよう。全部が疑問点なんだけど。

「結局、桜ちゃんって変わったところはあったの?」

 全部意味不明だから、分かっている人に聞こう。

「いーや。彼女はただの一般人。研究所や特殊な児童養護施設みたいなところにいたんだったら、そこから彼女の経歴を漁ることもできたんだろうけど、そんなのは一切ない。この町で生まれて、この町で育って。まあ、ここも東京の外れとはいえ何一つ不便なこともないごくごく普通の町だからね。もちろん彼女は補導だって一度も受けてないし、留置所や少年院に行った形跡もない。一つ気になるところといえば、父親がいないってくらいかな。でもそれだって、別に珍しいことじゃないね」

 へー。そんなことまで分かるんだ。

「ついでに一緒に取ってきた母親の戸籍と比べても矛盾はないし、本物だと思う」

 ふーん。

「だからこそ、君が言ったような彼女の異常な存在感の無さが説明できない。そんなのがあったら、もう超能力だよ」

  諦めたように悪態をつく明智

「なーんか、彼女のことについてなにか面白いことが分かるかと思ったけど、なんかもういいや。飽きちゃった」

「えー、そんなー」

「彼女は単に偶然、存在感が薄いってだけの人。他人に干渉してないんだったら存在感もくそもないでしょ。はい終わり」

 そんな! 明智が手伝ってくれなかったら、あたしだけじゃ何もできないよ。

「もうちょっとだけ一緒に頑張ろうよ」

 あたしの声かけもむなしく、明智は虚空を見つめながら大きなあくびをした。

「でも、なーんか、妙に出来すぎているんだよねー。偶然だって言われたらそれまでだけど」

「そう! あたしもそう思っていたの」

 本当に? と言いたげな明智の視線が刺さる。

「だって、桜ちゃん。ずっとスマホいじってたし、話しかける子もいなかったけどさ、桜ちゃん、木から降りれなくなったあたしを助けてくれたんだよ」

「君、一体何してたの」

「だからね、あの、えっと…… 他人に干渉しないんだったらあたしを助けることもないでしょ」

 それが言い訳ですらないことをあたしは分かっていた。それは明智にも伝わっていて。

「はあ。なんであの子にこだわるのかボクには分からないんだけど。あの子は君にとってそこまで大切な存在なの?」

「――うん。そうだよ」

「君だってあの子のことは最近知っただけじゃない」

「でも、それでも」

 浮かんだ雑念を除くために頭を振って、言葉を紡いだ。

「桜ちゃんと仲良くなりたいんだ」

 明智は無表情のまま、しかしその顔をゆがめ、満面の笑みを浮かべた。

「ははっ! いいね。やっぱり君は面白い。しょうがないな。ボクは君のためにもうちょっとだけ頑張ることにするよ」

「わぁい!」

 明智はカメラを首にかけ、勢いよく立ち上がった。

「じゃ、次は彼女についてボクが調べることのできない場所を探るよ。探偵の基本は――」

「『自分の足と勘』だよね」

「むぅ、それボクの台詞」

 不機嫌に頬を膨らませて、明智は腕を組む。

「まあいいや。じゃ、ボクの権限が届かない場所―― 学校内の情報を探るよ」

 

 そしてあたしたちは、学校に向かった。放課後はいつもとは違った鮮やかな橙色に染められていて、人気も少ない。ほかの人たちはクラブ運動や課外活動、あと補習なんかに出回っているから、そろそろ日没になるこの時間には本当に誰もいない。

「なんか不気味だね」

「そう? ボクはそうは思わないけど」

 いつも通りの表情で、何事もないかのように歩いていく明智

 別にあたしだって、お化けとか信じてるわけじゃないんだけど、でもやっぱり怖いものは怖いの。

「あの、明智、もっかい学校に戻ってきたのはいいんだけど、どこ向かってるの」

「ん? 職員室だよ。忍び込んで、その桜に関わる情報を仕入れるんだ」

「ええっ、だめだよ!」

 じとーっ、と明智に白い眼を向けられた。

「さっき、『探偵の基本は自分の足と勘』って言ったよね」

「う、うん」

「それはつまり、自分の知りたいことなら手段を選ぶな、ってことにもなるんだけど」

「えぇ……」

でもやっぱり、忍び込むとかはちょっとね。

「ねえ、他のやり方はなかったの?」

「逆に聞くけど、君にはあるの? ほかのやり方」

「うーん」

 そう言われても、急には思いつかないよ。

「なーに、忍び込みといっても泥棒するわけじゃないから心配いらないよ」

 明智はにやりと笑った。

 

「ねえー、先生?」

 小さな職員室。明智は猫なで声でその人に近づいた。

「どうした小林、と、えっと――」

明智です。四年の養護学級の」

「ああ、君が明智君か。すごく頭のいい女の子だって聞いているよ」

 椅子に座ったままの先生は、背の低い明智と同じ目線に立って優しく話しかけた。

 彼は影夫先生。名前に違わず影の薄い人なんだけど、優しくていい先生なんだ。あたしたちの担任の先生でもあるんだよ。

「ねー、そんな先生に見せたいものがあるんだー」

 無邪気に明智は、首にかけたカメラの液晶画面を先生に見せた。そこに写っているのはあたしにはわからなかったけれど。

「ねえ、先生。これ、PTAにチクったらどーなると思う?」

「い、一体何が目的なんだ……っ!」

 なんて言いあっている明智と先生の様子を見たら、何があったか分かったような気がした。

「じゃ、先生の机の、一番下の引き出しに入っているものを見せてほしいな。早く出したほうが身のためだと思うよー?」

「くっ、そんなのに屈したりしないっ」

「いーの? ねえ、どうなってもいいの? PTAだよ? もしかしたら全国ニュースになるかもねー」

「脅しには勝てなかったよ……」

「ふふ、テンプレのような即落ち二コマだね」

 がっくりと頭を下げ、しかしちょっと嬉しそうな先生は机の引き出しを開けると、綺麗にファイリングされた書類の一部を取り出し、明智に差し出した。

「見せるだけだからな」

「ふふん。ボクは一度見たら忘れないから関係ないよ」

 

「ねえ明智。一体先生に何を見せてたの?」

 職員室を後にしたあたしたち。あたしはちょっと気になって、明智に聞いてみる。

「ん? ただの盗撮写真だよ。あの担任の先生、女装癖あるらしくてね。くくっ。でも結構似合ってたんだよ」

 それにしてもノリのいい人だったなー、なんてこぼす明智を尻目に、あたしは一番聞きたかったことを聞いてみる。

「ねえ、桜ちゃんのこと、何か分かった?」

「ああそうだった。忘れてた」

 忘れてるなんて、ひどいよ。

「なんてことないよ。あの子がこの学校に入ってから――一年生のころから――のIQテストの結果とか健康診断書なんか見たんだよ。言ってみれば、彼女のことについて丸裸にした紙束だったんだ」

 ふふん、と自慢げに腕組みをする明智

「桜ちゃんを、丸裸。はわわわ……」

「何狂った発想してるんだよ」

 桜ちゃんの丸裸を想像するだけで、耳まで熱くなってきた。

 きっと桜ちゃんは、細くてスレンダーで、芸術作品のようにきれいな裸をしているんだろうな。あ、でも逆に、可愛い顔でだらしない体つきでもいいかも。

「おい、戻って来な。変態ガール」

「はっ、あたしは一体何を」

 あきれ顔の明智は、ごみを見るような目であたしを見た。

「全く。本来君にレズ性癖はないはずでしょ。もしそうだったら、ボクは今から君と距離を置くよ」

「ち、違うよ! あたしはただ桜ちゃんのことが気になるだけ!」

「はあ。別にいいけど」

 歩みを進めるあたしたちの前に、大きな夕日が沈む影が伸びた。同時に、アナウンスから帰宅を促す音声が流れ、肌寒い夜の風が吹く。それはあたしが体験したことのない感覚で、幻想的な雰囲気を纏っていた。

「ねえ。あたし、明智が潜入するって言わなかったら、こんな景色を見ること出来なかったんだね。ありがとう、明智

「唐突に何だよ」

 一度振り向いたと思うと、また興味のなさそう歩き出された。

「……天然ジゴロかよ。ボクまで落とす気か」

「え、なに?」

 小さい声で喋られたから、聞き取れなかったよ。

「……何でもない!」

 今度は大きな声で叫ばれた。

 むー。

 

 家に帰って手洗いやうがいを済ませたら、機嫌の直った明智がテーブルに足を置いて、不良よろしく座っていた。

「ねえ、君の両親はまた遅くなるのかい?」

「うん。そうみたい」

 今は午後六時ちょっと前。この時間に帰ってないってことは、きっとまだ仕事が終わってないんだろうな。

「ボクが他人のことにどうこう言うつもりはないけど。寂しくないの」

「うん。あたしが小さい時からこんな感じだったし。でも、明智もいるから寂しくないよ」

「嬉しいこと言うじゃないか」

 予想通りだね、と明智は得意げに笑みを浮かべた。

「じゃ、これからどうするか決めようか」

「うん。まず、今分かっていることは――」

「『彼女が普通の生い立ちであること』そして『彼女はかなりの天才児であること』だね。ボクもあの書類見て驚いたよ」

 ボクと似ているな、なんて。明智はますます嬉しそう。

「でも、それだと可笑しいんだよね。言語能力も論理的思考も万遍なく高いから、やろうと思えば、海外の大学で飛び級入学だって出来るはずなんだよ。数学や頭の柔軟性、記憶力。さらに運動神経まで優れている。どんな環境だって彼女はトップになれるはず、なんだ」

 途端に苛々し始める明智

「それなのに、学校の成績だけは低い! カウンセリングでも異常や学校への苦手意識はないって報告だ。わざとだよ。これ!」

 明智は怒り出した。

「全く! 人を舐めているとしか思えない」

 一応、明智、桜ちゃんより一つ年下だからね。

 まあ、思ってるだけで言わないけどさ。

「ボクはせいぜい、記憶力と論理的思考が飛び抜けているだけだ。だから探偵にしかなれなかった。まだ経験が浅いことも、歳が幼いことも自覚してる。まあでも、そこら辺の大人ともよりは優秀だと思うけど」

 傲慢に謙遜する明智

「でも彼女なら、何にだってなれる! 自分の持っている才能だけで、たとえボクと同じ小学生であっても、努力するだけで、挫折することなく、望む未来が得られるんだ。大臣でも、軍人でも、偉人でも」

 体力が尽きたのか、息を切らせて明智は演説を止めた。

「ええっと、つまり?」

「つまり! 彼女はとても頭の良い一般人ってことだよ!」

 最後の力を振り絞りあたしに返事をした明智は、息も絶え絶えテーブルに伏した。

 いつも勝ち気な明智が肩で息をして苦しそうにしていると、心配になるというよりも少しちょっかいを出したくなる。

 明智のぼさぼさだけどどちゃんと手入れされている髪をこねこねといじり回す。「やめろー」との言葉とともに明智の小さな背中が震えたんだけど、抵抗する気力はないみたい。

「ボクは体力がないんだー やめろー」

 

 ひとしきり弄られた明智は、息切れを落ち着かせつつ語り始めた。

「もうこうなったら、徹底的に洗ってやる。彼女の存在感の無さ、ひん剥いてつまらない理論で片付けてやる」

「お、おー」

 よく分からないけど、明智はいつにもましてやる気を出している。

 

「そして、今度は尾行?」

「しっ! 気付かれるだろ」

 明智がやる気を出した次の日。今日は四時間目で学校が終わる日で、あたしは給食も掃除もそこそこにして、帰りの会もほどほどに、教室から飛び出した。明智はいつもの養護学級でのんびりと将棋を打ちながら待っていて、本当に緊張感がない。

「あ、もう終わってたんだ。じゃ、ちょっと待って」

 そう言って明智は将棋盤に体を戻した。

「四二歩。これで詰みだ」

「くっそー。やっぱ明智ちゃん強ええ!」

「ボクに勝とうなんて、あと二年は早いよ」

 低学年の男の子にどや顔する明智って……

 

「これでもボクは手加減したんだからね。八枚落ちだったし」

 養護学級の先生たちに挨拶して学校を出た後。桜ちゃんはすぐに見つかった。

「でもあいつも中々強くてさ。つい本気出しちゃったよ」

 尾行中だから小声で話しているけれど、あたしは桜ちゃんに気付かれてないか心配。

「それより彼女の恰好、よく考えられてるね」

 明智は目を細め、静かに笑った。

 桜ちゃんは今朝と同じく女子小中学生に人気のプチプラブランドで固めていて、靴も大手量販店のものだった。でもランドセルはいつの間にかなくなっていて、代わりに小さなディパックを背負っていた。

「きっとコインロッカーだね。前々から準備してたんでしょ。ランドセルのままじゃ怪しまれるから」

 そうこうしているうちに、地元でも有名な繁華街にたどり着いた。

「……まずいね」

 明智は得意げな顔のまま唇を噛む。

 そこは地元でも有名な場所で、俗に西側と呼ばれている。噂だけど、ヤクザやマフィアって人たちがたくさんいるんだって。だからあたしは「あそこに行っちゃだめ」って言われてる。あ、でも今は桜ちゃんを追ってたら知らないうちに入っちゃっただけだから、セーフだよ。わざとじゃないから。

 そして桜ちゃんはスマホの画面を見たと思うと、一人の男に声をかけた。それはスーツの似合う大人で、若いけれどやり手で、しかもそこそこイケメンだった。

「あの人、誰だろ。お兄ちゃんかな」

「なわけないでしょ。十中八九犯罪者だ」

 ロリコンだよ。気持ち悪い。と明智が零す中あたしはその男をじっと見た。清潔感のある短髪で、肌やスーツは綺麗に整えられている。自分より背の低い桜ちゃんの目線に合わせて腰をかがめるなど、気配りもできる。

「やっぱりお兄さんじゃないの」

「戸籍見たでしょ。あの子は一人っ子だよ」

「じゃあ従兄とか」

「可能性はあるけど、でもこんなところで待ち合わせする必要ないでしょ」

 うーん。たしかに。

「っ! 動いた」

 二人は仲が良さそうにおしゃべりしながら歩き始めた。周りがうるさくて会話の内容が聞こえないのは残念だけど、逆にあたしたちの尾行がうまくいっていると考えると、仕方ないのかなあ。

「こっから先が本番だからね」

「うん! って、あれ?」

 二人はどこか遠くに行くと思ったら、すぐ目の前の建物に入っていった。

「……えぇ」

 そこは小さなホテルで、ビルとビルの隙間にこじんまりと立っていた。

「まじかよ」

 明智がそう言って、目の前のそれを睨んだ。

「ラブホテル……っ!」

「ラブ――ぇ?」

 ここ普通のホテルじゃないの?

「まずいよ。撤退だ」

「なんで?」

「なんでって、それは」

 明智は赤面し、あたしの目をそらした。

「それは、その、ラブホっていうのは、ね」

 うううっ、と明智は唸り、叫んだ。

「大人の男女がいけないことするための場所だよ!」

 明智は大粒の涙をその大きな瞳に浮かべ、白い肌をさらに赤く染めた。

「でも桜ちゃん、あたしと同じ年だから、まだ大人じゃないと思うんだ」

「くそ。無知ってのは最強だな」

 袖で涙を拭い、何事もなかったかのように振る舞う明智

「でもそれだと、あたし達は中に入れないんじゃ」

「そうだよ。だからどうしようもないよ。というかボクは早く帰りたいんだよ。恥ずかしいんだよ」

 うーん。

 あ、そうだ。

「ねえねえ、そこのネットカフェ行こうよ」

「君、このタイミングで何を言っているんだ」

「あのね、あたしにはよくわからないんだけど、大人の場所なんでしょ。このホテル」

「あー、うん、まあね」

「じゃあさ、まずこのホテルについて調べてみようよ。『探偵の基本は、自分の足と勘』そのために、まず調べものしないと」

「ほう」

 そうか、と明智はあたしを見て呟いた。

「成長したね、君も」

 

 そうしてたまたま近くに合ったネットカフェに寄り、あたしたちは目の前のホテルのサイトを調べた。小学生二人が店に入ったから店員さんに怪訝な顔をされたけど、明智が何か黒革の手帳を見せたらなぜか驚いて席に案内されたんだ。明智ってすごい。

「ふむ、間取りまで公開されてるね。幸いだ」

 そしてぶつぶつと小さく考え込んだ後、顔を上げた。

「よし、もう一度、潜入だ」

 

 そしてあたしたちはホテルの中に潜入し、桜ちゃんの待つ部屋の中へとたどり着いた。道中色々あったけれど、今回は割愛。いや、本当に大変だったからね!

「さあ、準備はいいかい?」

 覚悟を決めた明智が、あたしを見た。

「うん! もちろん」

 君は本当に何も考えてないよね、と呟き、彼女は目の前の扉を開けた。

 そこには。

「あら。遅かったわね」

 小さな体をベッドに預け、妖艶に微笑む桜ちゃんの姿があった。一枚のベビードールのみを身にまとった姿の彼女は、その奇跡のように細い両腿に鮮血と白濁液を付着させたまま、あたしたちを見つめた。

「初めまして、優秀な探偵さん。私はずっと、あなたのことを待ってたわ」

「ボクは君のことなんて知らないよ」

「そう。でも私はずっと興味があったの」

 彼女はその小さな秘部を露わにし、あたしたちに問いかけた。

「ねえ、あたしの値段、知ってる?」

「何だい唐突に」

 彼女が髪を手で梳く仕草にそって、薄いベビードールが揺れる。

「ふふ。あなたなら察しているでしょ。――売春の話よ」

 不敵に微笑む桜ちゃんに対して、明智は苦しそうだ。

「私は、時間当たり、一万六千円。それも手取りよ。もっとも、私の後ろ盾やホテル代なんかも合わせて、客が払うのはもっと高いみたいのだけれど」

 その少女は不敵に笑う。

「それにしても。合理的な推理で有名な明智ともあろう探偵さんが、ただの一般人を連れてくるなんて、珍しいこともあるものね」

「なんか、こいつの頼み事って断れなくてね。というか、君だって一般人だろ」

 その言葉に、桜ちゃんは大きく目を見開き、驚いた。

「どうかしたの?」

  あたしはちょっと心配になって聞いてみた。

「驚いた。探偵さん、私の正体を知ったうえでここに来たんじゃないの」

「どういうこと?  自意識過剰?」

「私が『黒蜥蜴』と知ったうえで、ここに来たんじゃないの」

今度は明智が驚いた。

「へえ、君が! そうかそうか」

 得意げな顔で、明智はうなずいた。

「得てして、ボクは推理をせずに事件の真相までたどり着いたわけだ」

「こん……のっ!」

 対して桜ちゃんは侮蔑のような、嫌悪のような表情を浮かべて、あたし達より少し高い位置から見下ろした。

「何よ、それ。こんなの、推理しない名探偵なんて、私は認めないわ」

「ふふん。推理をせずに事件を解決することくらいあるさ。だって、警察でも対処できないような事件をあっさり解決するから、名探偵と呼ばれるんだ」

「こんなの、私は認めない」

「君が何を言おうと、ボクがなりゆきで事件を解決したって事実は変わらないよ」

「……っ!」

 桜ちゃんはおもむろに手元にあった小さな鞄から剃刀を取り出すと、静かにそれを自分の左手首にあて、動かした。

「なに?」

 いきなりのことに頭がついていかないあたし達に対し、何事もなかったかのように微笑む桜ちゃん。

「その、手首。トリックじゃないよね」

「ふふ、ええ。そうよ」

 彼女が切ったそこからは、徐々に赤い血液が流れ出ている。

「やめてよ、桜ちゃん!」

「どうして?」

「それは、その。痛いでしょ」

 あなたには関係ない、と彼女は視線を明智からあたしに向けた。

「痛むわ。でも、心が。心の中が、ざわつくの。気持ちが、抑えきれなくなって、苦しいの」

 桜ちゃんはそう言って、胸に手を当てた。

「でも、そんなことしちゃだめだよ」

「『そんなこと』なんて!」

 急に大声を上げた桜ちゃんは、ベッドの上に立ち上がると、叫んだ。

「私のこと何も知らないくせに、勝手なこと言わないでよ! 私だって、本当はしたくないの。でも、でも……」

 激情のまま言葉を止め、泣き出す桜ちゃん。その姿は同じ年には思えなくて、クールな桜ちゃんが急に小さな女の子になってしまったかのようで。

「……っう!」

 あたしは何も語らなくなったその小さな唇をあたしの唇でそっと閉じた。

「ほう、やるねえ」

 黙っていた明智が茶化すけど、あたしは口の中に舌を入れる。

 その中は小さく、蹂躙することは簡単だった。けれど血の匂いがしていて、少し残っていた精液の匂いが染みついていて、背筋がぞわぞわとしちゃった。それでもあたしは、さらに小さな舌を絡めて、舐めて、梳る。

「っ、ぷはぁ」

 息継ぎのために少しだけ顔を離す。すると、桜ちゃんのとろんとした表情が見え、その火照りがあたしの元にも伝わってくる。

「桜ちゃん、いい匂いする」

 小さな女の子特有の、甘いミルクのようなそれが全身に伝わり、むせ返るようなそれがあたし達を包み込む。

「ね、いい?」

 あたしは桜ちゃんに問いかけると、彼女は静かにうなずいた。

「ねえ、ボクも混ぜてよ」

 明智が桜ちゃんの後ろに回り込む。そして彼女の乳首のまわりをそっと指で撫でた。

 嬌声を上げた桜ちゃんに、あたしはそっと 彼女の秘部をそっと撫でた。可愛く震えだす桜ちゃんをそっと抱きしめた瞬間、彼女は少しだけ果てた。

 

 

 

エピローグ

「いやー、すっかり遅くなっちゃったね」

「それはあなたがずっと触ってたから」

 すっかり仲良くなった桜ちゃんと疲労困憊の明智二人で帰路につく。

「ねえ、あなたのその技術、一体どこで身につけたの?」

「『その技術』って、なあに?」

「うー、察してよ」

「ねえねえ、何のことかな? ボクわかんない」

「うううー」

 悶え始める桜ちゃん。きっと、あたしがなんで性交渉の技術があるのか知りたいんだろうな。

禁則事項ですっ」

 でも言わない。自傷行為をあたしに晒してくれた桜ちゃんには申し訳ないけど、言ってしまって嫌われるのが怖い。

「でも、あたしは桜ちゃんのこと嫌ったりしないよ」

 卑怯者だってのは分かってる。

「……あ」

 そんな折、一枚の花弁が降ってきた。

「桜だ」

 夜風に舞い、その小さな花びらがひらひらと踊る。

「きれいね」

 桜ちゃんはそれをうっとりと眺め、明智は目を輝かせてそれを見た。

「ねえ」

 長い髪を翻し、桜ちゃんがあたしを向いた。

「ありがとう」

 その言葉がきっかけとなり、桜は一斉に、あたし達の視界を埋め尽くす。

「私のこと、追っかけてくれて、ありがとう。私、あなたに会えて、本当に良かった」

 でも最後のアレはちょっと驚いたけどね、と桜ちゃんは恥ずかしそうに頬を搔く。

 彼女のその、恥ずかしそうな微笑みが引き金となり、春に浮かれるあたしの心を撃つ。