(改訂版) Spring Trigger [1]
こんにちは! 管理人のそらみん。です!
さて今回も、部誌投稿作品の一つを公開していきたいとおもいます!!
ただ、実はこの作品、一部性的描写がありまして、
原稿のまま載せるのはまずい、と色々な方々に怒られてしまいました orz
そのため、今回はそういったものを省いて、掲載したいと思います。
原本は部誌だけではなく、「小説家になろう」さんにも掲載しております。
(本当はここにリンク貼りたいんだけど、性的なサイトへのリンクとかって言われそうだしなぁ)
とりあえず前置きはこれくらいにして、本編です!
読者諸君
この物語はフィクションです。実際の人物、組織、団体等と一切関係ありません。特に、江戸川乱歩大先生の作品とは一切関係ありません。
だから、なんも関係ないんだって!
Spring Trigger
プロローグ ――玉木のガール・ミーツ・ガール――
桜が舞い散る、校庭の一角。
スマホを操作していた手を止め、何気なく視線を上げてみた。
「きれいな、桜」
人気のない道に春の太陽が降り注ぐ並木道。散ってゆく花弁が光を反射し、舞う。
私はここが好き。退屈なとき、落ち込んだとき、いつもあたしを紛らわせてくれるこの場所。見たくない現実から目をそらさせてくれる、この場所。
前髪が少し目に触れて目を閉じてしまったけれど、さらさらと花がこすれあう音は耳に聞こえてきて、暖かい風が肌に当たり、懐かしい桜のにおいが鼻孔をくすぐる。
「さて、と。もう行かなくちゃ」
ぼおっと目の前の景色を眺めているのもいいけど、そろそろ時間になっちゃう。
「――――!」
ゆっくり立ち上がりスカートの汚れを払ったその時。頭上から不意に、女の子の悲鳴が落ちてきた。
目を向けると、
「⁈」
スカートから降りる可愛らしい両脚と、純白の下着。
いったいなに……?
「たすけてーっ! 下ろしてーっ!」
分からないけど、木から降ろしてもらいたいらしい。
ひとまずあたしは木に登り、その主へと移った。
「どうしたの?」
「うおっ! びっくりした」
の主は口を四角く空け、目を大きく見開く。可愛らしく驚いたそれは髪を短めに切り揃えた女の子で、柔らかそうな頬を赤く染めながら、涙目のまま私を向いた。
「なんであなたはこんなところにいるの?」
「いやー、この子助けようとしたんだけどね。あたしも降りられなくなっちゃった」
なにそれ。
私は彼女の手元で鳴いた子猫を見やりながら、ため息をつく。
「ここから飛び降りなさい。そこまで高さはないから大丈夫よ」
「えっ! 無理」
騒ぎ出す彼女。このままだと遅かれ早かれ落っこちてしまう。
しょうがないなあ。
「じゃ、しっかり掴んでて」
私は彼女の体を抱きしめると、思いっきり飛び降りた。
「ひゃああぁっ!」
その小さな体を抱きしめながら、衝撃の瞬間に備える。
三、二、一。
「っ……」
まともに足から落ちたため、声にならない叫びが上がった。
「ぐひゃっ」
私が抱きしめた女の子も、同じように声を上げた。
「にゃう!」
それを聞いた猫も同じような悲鳴を上げた。
「……無事?」
やっとの思いで引いた痛みを悟られないよう注意しながら問いかけてみた。
「痛ったいけど、あたしは平気。この子も怪我はないみたい」
安堵の表情を浮かべる女の子をよそに、あくびをした子猫は腕の中から飛び出した。
「あ、待って!」
女の子も飛び出し、子猫を追いかけて行った。
「……騒がしい子だったな」
いまだ痛みの残る足をさすりながら、地面に腰を下ろした。
そういえば、名前聞いてなかったな。
「――ぱんつの子、でいいか」
まさか、退屈しのぎで来た場所で、変な子に合うとは思わなかった。
でも、すっごくかわいい子だったな。
第一章 小林少女と存在感の消えた少女
あたしは昨日、春休み最後の日に子猫を助けるために木に登って、一緒に降りられなくなっちゃったんだ。バカだよね。五年生にもなって。
でも突然現れた謎の美少女に助けられて、けれどお礼もできずに逃げ帰っちゃった。
まああれはあの子猫が悪いんだけど。
でもでも、まさかその美少女にまた会えるなんて思ってなかったよ。
「はあ。運命の神様適当すぎ。おんなじクラスになるなんて」
進級してクラス替えして。そしたら会いたかった少女がいて。
「玉木桜ちゃん、か」
さっき自己紹介で覚えた名前を反芻しながら、彼女を見る。
さらさらで触りたくなるような長い黒髪、長いまつげ。穢れが一切感じられない肌と、細く伸びた手足。この世のすべてを毛嫌いしているかのようにひそめたままの眉も愛らしい。そして、こんなに人目を引く美貌であるにもかかわらず人が集まらないのは、彼女が周りを拒絶しているからなのかな。それがまた、彼女の神聖さを際立たせているみたい。
おしゃべりしてみたいな。
幸い、今は進級式が終わって、担任の先生の挨拶や自己紹介も終わった時間。決まったばかりのクラス委員長と副委員長が先生と一緒に新しい教科書を取りに行っているのを待ってるだけの時間で、あたしたちは三々五々に仲の良い友達同士でおしゃべりしていたり、逆に一人で机に座っていたり、ランドセルの中身をいじって教科書の入るスペースを確保していたり色々。
男子はなんか知らないけど、昨日やってたバラエティ番組のことで集まって喋っていたり、芸人の真似して変なポーズして騒いだりと意味わかんないことしてる。うん。こっちはいつも通り。
だからまあ、あたしが出歩いていても問題ないはず。
俯いてスマホを触っている桜ちゃんの元にこっそり移動する。
「ねえ、あなた昨日の子でしょ」
後ろから声をかけると、彼女は毛を逆立てて目を大きく見開いた。
「あ、ごめんごめん。驚かすつもりはなかったんだけどね」
手を合わせて申し訳なく態度で表す。
「別に。私は気にしない」
少しばかり棘のある声だが、それが余計にあたしの心を揺さぶる。
「そうそう。昨日は助けてくれてありがと。お礼できなくてごめんね」
「いいよ、別に」
「あ、あたしは小林――」
「知ってるわ。さっき自己紹介してたでしょ」
「でも覚えてくれるなんて、嬉しい」
「たまたま聞こえただけだから。勘違いしないで」
視線をそらしスマホをいじり始めた桜ちゃんだったけど、頬が少し赤くなっていた。
「あ、そうそう。放課後なんだけど、一緒に遊ばない?」
とりあえず誘ってみる。話はそれから。
「え」
短い一言を放ってあたしの顔を見る桜ちゃん。その顔は、さっきまで一人でいたときよりも明るくなったみたいだ。
ただ、その時彼女の手に握られたスマホが小さく震えたせいで、また桜ちゃんの顔が暗くなってしまった。
「……ごめんなさい。私、用事あるの」
「ふーん、じゃ、また誘うね」
彼女が言うならしゃーない。
踵を返した瞬間、彼女は小さく零した。
「――大丈夫。あの子にはばれてない」
ん、どういうこと?
「ってな訳で、協力しなさい! 明智」
「なんでよ」
ぼさぼさに乱れた栗色のポニーテールを揺らして、こっちを見る女の子。
こいつは明智。あたしにとって最高の相棒。
あたしの一つ下で小学四年生ながらも、留守がちな渡りの両親に代わって一緒にご飯食べてくれたり、いろんなところに連れてってくれるあたしの親友。そして、クラスで浮いちゃうからって養護学級に所属しているんだ。だから、明智のことを知っているのは、偶然家がとなりのあたしくらい。
明智はその綺麗な眼を細め、怪訝な顔をしてあたしを見た。
「なんでって、明智って優秀な探偵なんでしょ。謎の美少女を調査できるなら役得でしょ」
「それって、君がやりたいだけでしょ。ボク関係ないじゃん」
面倒くさそうにしているけど、実は明智、とっても賢いんだ。警察からも一目置かれる頭脳を持っていて、事件を解決するため特別な捜査権を与えられてる。でも本人はとっても面倒くさがり。もっとしっかりしてもいいのに。
「それにボクは、探偵にしかなれなかっただけだよ」
悲しそうに目を伏せた明智。でもすぐに顔を上げると探偵の、プロの顔になった。
「で、今回は人調べ?」
「いいじゃない。いつもやってるんでしょ」
「やだ。めんどい。ただでさえ今刑事部捜査一課の人から捜査協力頼まれてるんだから。断るつもりだけど。面倒だし。この町に、『黒蜥蜴』と呼ばれる女性の売春殺人鬼が現れてるとか、どうでもいいよ」
むー。ちょっとくらいいじゃない。
「ねえ明智、あたしのお願い聞いてくれたら、イイコトしてあげられるのに」
スカートの端をひらひらしながら言ってみる。
「女の子しかいないのに何言ってるの」
さすが明智。ツッコミも鋭い。
「それより、今度は何を調べるんだって」
「女の子」
「はあ。やっぱりあんたレズだったか。まあボクに関わらなければ何でもいいけど」
「違うもん! あのね、さっき教室でね――」
「なるほど。あんたはその子に嫌われてると思ったんだ」
「うーん、まあ、そうなんだけど」
でもそうじゃなくて。
「それ以上に、あの子と仲良くなりたいんだ。ただそれだけだよ」
「ふーん」
明智は本当に興味がなさそうだ。
「じゃ、君のお願いだし、いいよ。片手間で適当に捜査するから、色々手伝ってもらうよ」
そして次の日。あたしは聞き込みをした。明智が言うには、いろんな人たちから話を聞いて限りなく多くの情報を手に入れろ、だって。クラスにいる仲の良い女の子たちだけじゃなくて、話のしやすい男の子や、ほかのクラスや上級生、下級生、そして先生や事務員や清掃員の人たちと、学校にいる人々のほとんどに、桜ちゃんのことについて聞きまわった。もちろん彼女にばれないよう注意して、だけど。
「で、何か分かったの」
昼休み。上級生であるはずのあたしの教室に明智が入ってきた。
「何もわからない、ということが分かりました」
「ふざけんなよ」
自分の席に座っているあたしを見下ろして、腕組みのまま仁王立ちしている明智だけど、一回りも小さな彼女は活発的な女の子グループに愛でられ、頭を撫でられたり質問責めにあっている。どうにも威厳というものが感じられないあたりすっごく可愛い。
「いや、本当だって。直接関係ない事務員さんとか、先輩後輩とかならわかるんだけど、何回もクラス替えしているはずの同学年ですら、桜ちゃんのこと知らないんだ。みんな、あたしとおんなじで、彼女のこと知らなかった」
「ほう。得てして妙だ」
明智はべたべたと上級生からの洗礼を受けながらも、それを気にせず考え事を続ける。
「ボクのように養護学級通いでクラスメートと面識のない、もしくは不登校だったら分かるんだけど、学校に登校しておいてその存在感の無さはおかしい」
「ん?」
どういうこと?
「変なんだよ。学校にいて誰も知らないレベルで目立たないということは。数人くらいは仲の良い友人くらいはいるだろうし、そうでなくてもぼっち同士でカテゴリ分けされているはず。なのに誰も彼女のことを知らない。話の話題にすら上がってないってこと。おかしいよ」
「たしかにそうだよね」
「うん。ちょっと興味わいてきた。たかが一女子小学生がこんな存在感のないことってありえるのか。」
「そういえば桜ちゃんが欠席したって話も聞かないね」
「ふむ。徹底しているね」
明智はだんだんうれしそうな顔になる。
「よし分かった。ボクも見せたいものがあるから、帰ったら楽しみにしていて」
そう言って踵を返す明智。
ただ、少し歩いたところで彼女は振り返り
「さっきは『ふざけんなよ』なんて言ってごめん」
それだけ呟き、教室から立ち去った。
「たっだいまー」
Spring Trigger (1) 完